トラネコがトラ刈りになったお話

 私は以前、ネコを飼っていた。何の変哲もない、日本では本当によく見かける赤トラの雌ネコである。こいつが中々やんちゃなヤツで、私達家族はずいぶん笑わせてもらったものだ。隣の家の雄ネコの餌を取る。それも、取った方が取られた方よりいばっている。食べながら、「ニャーッ!」と相手を威嚇するのだ。相手は大人しく食べ終わるのを待っているのに。文句を言うくらいなら、食べるなよ、と言いたくなる。昔、「アッシー」「メッシー」などという言葉が流行ったことがあるが、人間の女の方がまだしもだ、奢ってもらったらお礼くらいは言うよね、と思う。いやはや、雄ネコもつらいものである。それでも憎めない。もっともそれは私がこやつの飼い主だからで、隣の家の人には十分憎まれていたことだろう。
 ある日のことだ。自室で本を読んでいる私の側に来て、こいつがスリスリと甘えてきた。実はこのトラっこは、やんちゃな暴れん坊のくせに甘ったれで、人間にすり寄る癖がある。肌寒い頃で、部屋には電気ストーブがついていた。ご多分にもれず、このトラもネコ族の習性をしっかり受け継いでいたので、寒がりだった。電気ストーブにぴったりと体を寄せている。私は読書に没頭していたので、そのまま放っておいた。
 ふと気が付くと、どうも何か焦げ臭い。電気ストーブに糸くずでも入って燃えているのかと目を凝らしたのだが、何もない。おかしい、でも何かが燃えている。次の瞬間、アッとのけぞった。あろうことか、トラのわき腹の毛が焦げているではないか。
「お前、何やっているんだよ、燃えちゃうだろ!?」
 大慌てにトラをストーブから引き離したが、肝心のこいつは「おかしいな、何も怒られることはしていないはずなのに」と言いたげに、目をきょときょとしている。本当にあわや焼きネコが出来るところだった。
 結局、火傷はせずにすんだのだが、しばらくこいつのわき腹はダンダン縞に焼け焦げ模様が残ってしまった。これが本当のトラ刈りだね、家族でトラのわき腹を見る度大笑いしたことが昨日のことのように思い出される。そんなトラも今は天国に居る。天国でも焼け焦げには気を付けるんだぞ、そんなことをふと思う今日この頃である。

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